審査総評・結果

General Comment

審査総評

君たちの絵を見るために、今ココに居るんだヨ!!

審査員
森 一浩

 昨年の春、野見山暁治先生に「第40回吉井淳二記念大賞展」の図録を送ったところ、先生「僕が中学生の時に、吉井淳二さんから親子丼をごちそうになったよ」にビックリ。もうすでに野見山少年の才能を、吉井先生はどこかで感じていたのだろうか?
 さて本題。今回はハートフルの作品群から始まった。角園麻那氏の「きいろちゃんとはなのピンクいろ」はハーフトーンの絵画が多い中、今まで見たことのない世界が繰り広げられていた。そこには小動物?と作者が創り出す物語風の表現が漫画的に描かれているところが面白い。一般部門の伊集院正氏の「木花咲耶」は、パッと見た瞬間「書」の世界観を思わせる。一気に畳み掛ける決定的な瞬間芸、残された余白が更に緊張した時間帯を造っている。後で気付いたが、画の中央に二人の顔が写っている。これぐらいの見せ方がイイ。はっきりさせ過ぎると二つの世界観に分かれ、「瞬時」の出来事が損なわれる怖れがある。招待作家部門の野平智宏氏の「並行するボクの世界」はシュールな作品。白熊に時空を超えた存在感。なんだか現実の世界に寄り戻されそうなリアルさがイイ。小作品部門の柿元麻那氏の「ἄγωⅡ」は果てしない小宇宙空間の中、中央の輝く物体に己を感じさせ、周りの風景の中の木々に季を詠み取っている詩的絵画。高校生部門の清水太朗氏の「森閑の老木」は木々の質感を手前から頂上まで丁寧に表現。手前を思い切り大胆にした構図は視線の動向を誘う絵画になっている。中学生部門の伊地知新太氏の「帰路」は近景と遠景をうまく組み合わせ、空間の広がりを感じさせる。線的な方向性と背景の黒の森が画面を引き締めて好感の持てる作品になっている。小学生部門の丸野想月氏の「おいし草」は、モウこれしかない。作者にとって、日常風景の中、手前の親子牛の表情がこちら側(作者の方)を見て信頼を寄せている表情がイイ。構図は左端の後ろ姿の牛と上手くバランスが取れている傑作。幼児部門の原口玲夏氏の「ルンルンな鬼」は既にピカソ、マチスを超えている。無邪気な表現、表情には遊びがある。「遊び」。それはやりたいことを夢中になっている人の姿、人間の創造性と幸福の根源。子どもの絵を見て、とうに置き忘れた事柄を思い出させてくれた。幼児部門の審査に当たっては「ピカソだらけだ…。」全作品に手を挙げたい気持ちになった。君たちの絵を見るために、今ココに居るんだヨ!! 

プロフィール

ブラジル サンパウロ生まれ
5歳で鹿児島に帰郷
東京藝術大学美術学部油画科卒業・同大学院博士課程修了
1976年
安宅賞、大橋賞

1978年
修了制作買上げ賞(首席)文部省買上げ

1984年
第20回神奈川県美術展準大賞

1990年
第1回風の芸術展大賞

1993年
FESTA FESTIVAL(スペッロ市・イタリア)

1995年
鹿児島市立美術館にて個展

1999年
第6回国際コンテンポラリーアートフェスティバル‘99NICAF

1999年
日韓現代美術展(ロッテ美術館・韓国)

2000年
Asia Art Now 2000(ラスベガス美術館)

2007年
サンパウロ州立美術館にて個展

2010年
SALVADOR ALLENDE(サンティアゴ・チリ)

2013年
Museu Historico da Imigracao Japanesa no Brasil

1996~2023年
ブラジルサンパウロと日本を往復しながら制作活動を続ける

年齢を問わず、描くことに対する喜びや作者の素直な感動が、ストレートに表現されている作品に強く惹かれました。

審査員
遠藤彰子

 吉井淳二記念大賞展は今年で41回目を迎えました。今回もバラエティーに富んだ意欲的な作品が多く集まりました。
 一般部門大賞に選ばれた伊集院正さんの「木花咲耶」は、インクを落としてできた偶然のフォルムから、感じたままを素直に表現したかのような作品です。心理学のロールシャッハテストを想起させ、作者の無意識レベルのパーソナリティ特性が現れているような、とても良い表現だと思いました。白から黒までの調子の幅や、抽象性と具象性のバランスも見事だと思います。
 小作品部門大賞・柿元麻那さんの「ἄγωⅡ」は、静寂な森の中にメタファーとしてのモチーフを散りばめることで、鑑賞者の深層心理に訴えかけてくるような表現になっています。象徴性を活かす画面作りがとても上手いと思いました。
 招待作家部門大賞・野平智広さんの「並行するボクの世界」は、人類が作り上げた街並みに動物が闊歩している不思議な世界観。私もこんな妄想をたまにするので、どこかでこの平行世界と繋がっているかもしれません。
 新設されたハートフル部門・角園麻那さんの「きいろちゃんとはなのピンクいろ」は、沢山の場面を一つの作品にまとめています。それぞれのシーンに物語性があり、絵日記を見ているような面白さが感じられました。
 高校生部門大賞・清水太朗さんの「森閑の老木」は、見上げる視点が、老いてもなお空へと向かう樹木の生命感を表しているようです。老木の木肌の質感、清々しい空気感も見事です。
 中学生の部・伊地知新太さんの「帰路」は、日常的な風景でありながら、構図を斜めに傾けて不安定な画面にすることで、思春期の揺れる心を表現しているように感じられました。
 小学生の部・市長賞の丸野想月さんの「おいし草」は、草を食べる二匹の牛のユーモラスな顔がとても面白い。それらと背後の牛とのバランスが上手くとれていることで、構図的にも良い作品となっています。また、幼児の部・市長賞の原口玲夏さんの作品も、大きく描かれた顔がとてもユニーク。タイトルの「ルンルンな鬼」には、たしかに!と、思わず笑みがこぼれました。
 遠藤彰子賞の米山弘子さんは、審査後に84歳だということを知らされました。若々しい感性が感じられる上、丹念に描かれており、とても良い作品だと思いました。来年以降も期待しております。
 今回は、年齢を問わず、描くことに対する喜びや作者の素直な感動が、ストレートに表現されている作品に強く惹かれました。惜しくも選外となってしまった作品の中にも佳作がたくさんあったので、結果にかかわらず来年もまた挑戦していただけたらと思います。

プロフィール

1947年
東京都生まれ

1969年
武蔵野美術短期大学卒業

1978年
昭和会展・林武賞受賞

1986年
安井賞展・安井賞受賞/文化庁・文化庁芸術家在外
特別派遣・渡印(~87年)

1992年
〔個展〕遠藤彰子展-群れて…棲息する街-
(西武アート・フォーラム)

2004年
〔個展〕力強き生命の詩 遠藤彰子展(府中市美術館)

2006年
「遠藤彰子展 Akism 生命を謳う」(茨城県つくば美術館)

2007年
平成18年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞(美術部門)

2014年
〔個展〕遠藤彰子展 魂の深淵をひらく
(上野の森美術館)/紫綬褒章受章

2021年
「魂の旅」(鹿児島市立美術館)

2023年
 毎日芸術賞受賞

2024年
 遠藤彰子展(札幌芸術の森美術館)
 2024年4月6日(土)~6月16日(日)

Examination outcome

審査結果

区   分 応募点数 応募人数 特別賞数 入選点数 特選点数
招 待 作 家 部 門 18点 18人 1点 17点  
一般部門 165点 130人 39点 73点
小作品部門 174点 137人 19点 83点
高校生部門 124点 122人 25点 81点
ハートフル部門 16点 14人 11点 5点
小   計 497点 421人 95点 259点 0点
ジュニア部門 中学生の部 152点 152人 13点 29点 9点
小学生の部 1,493点 1,493人 39点 360点 164点
幼児の部 713点 713人 35点 152点 51点
小  計 2,358点 2,358人 87点 541点 224点
合   計 2,855点 2,779人 182点 800点 224点

Judging Staff審査スタッフ

審査員  森  一浩、遠藤 彰子
企画アドバイザー  米田 安希
審査補助員     肥後 盛秋、清祐 香織
吉井淳二記念大賞展担当者
生涯学習課     課長  肥後 盛秋
          係長  末森 孝宏
              富田 洋一
              衛藤 萌々