General Comment 審査総評 世代を越えて作品が並ぶ光景は、曽於市の文化の豊かさそのもの 審査員 遠藤彰子 吉井淳二記念大賞展は、今年で43回目を迎えました。長きにわたり地域の文化として深く根付いてきた本展には、今回も0歳から96歳までという幅広い層から、意欲的な作品が数多く寄せられました。 一般部門大賞に輝いたトラウトマン・クリストファーさんの「沖水歩道橋」は、魚眼レンズを思わせる大胆な湾曲が見る者を惹きつけます。歩道橋からの俯瞰的な視点を生かし、足元から地平線の彼方まで広がる街並みをダイナミックに描写。人物をあえて描かず、建物の窓や影を丁寧に描写することで、そこに息づく人々の生活や物語を豊かに想起させる力作となっています。 招待作家部門大賞、吐師良子さんの「おもかげ」は、人物と犬の表情や手のしぐさが印象深く、画面全体から強い存在感が立ち上がってきます。ザラついた絵肌の質感が、日常の一幕に古い記憶のような深みと重みを与えており、静かな時の流れの中に、対象への温かいまなざしが感じられる一作です。 小作品部門大賞の靖涯さんの「Sweet Heart」は、毛並みの繊細な表現や布の質感が丁寧に描き込まれており、その柔らかな手触りまでもが伝わってくるかのようです。抑えた色調が静かな空気感を醸し出し、眠る猫を慈しむ作者の優しい視線が画面から溢れ出しています。穏やかな日常の一幕を鮮やかに切り取った一作といえるでしょう。 遠藤彰子賞の石山凌さんの「鶏」は、写実にとらわれない色と形の構成が、生命力あふれる魅力を放っています。鳥たちが重なり合う配置は画面に心地よいリズムを生み、生き物のエネルギーを鮮烈に提示。大胆な色彩と迷いのない筆使いが調和した、表現の力強さが際立つ作品です。 高校生部門大賞、小沢莉子さんの「色のすみかで」は、絵を描く少女の内面世界へと深く入り込んでいくような表現が印象的です。豊かな創造性があふれる一方で、現実から遊離していく危うさも感じさせ、幻想的な雰囲気と圧倒的な迫力が同時に立ち現れています。想像力の光と影を鮮やかに描き出した、見応えのある力作です。 ジュニア部門中学生の部、久保田夕陽さんの「自動車と影」は、自転車を斜めに切り取った大胆な構図が、画面に心地よい緊張感を生み出しました。地面に落ちる「影」を主役と捉え、その形を正確に追おうとする鋭い観察眼が光ります。モノトーンの中、反射板のわずかな色彩をアクセントにしたデザイン的センスが絶妙だと感じました。 小学生の部、今堀稜己さんの作品は、タイトル通り「でっかいへびにたべられそうになった」という衝撃がダイレクトに伝わります。赤と紺色の対比が大蛇の緊迫感を創出し、恐怖という感情を迷いのない色彩で可視化した表現力は見事です。また、幼児の部、隅元理仁さんの「せみの抜け殻」は、にじんだ色彩が地中の深みを感じさせ、並んだ虫たちがユーモラスに響き合う魅力的な一作。描く喜びが鮮烈に伝わる、生命力あふれる仕上がりとなりました。 惜しくも入選に至らなかった作品の中にも、個性が光る佳作は多数ありました。次回以降もぜひ挑戦を続けていただけたらと思います。 世代を越えて作品が並ぶ光景は、曽於市の文化の豊かさそのものであり、市民一人ひとりの表現が地域の魅力をつくり上げているのだと感じております。当コンクールの今後ますますのご発展をお祈り申し上げます。 プロフィール 1947年東京都生まれ 1969年武蔵野美術短期大学卒業 1978年昭和会展・林武賞受賞 1986年安井賞展・安井賞受賞/文化庁・文化庁芸術家在外 特別派遣・渡印(~87年) 1992年〔個展〕遠藤彰子展-群れて…棲息する街- (西武アート・フォーラム) 2004年〔個展〕力強き生命の詩 遠藤彰子展(府中市美術館) 2006年「遠藤彰子展 Akism 生命を謳う」(茨城県つくば美術館) 2007年平成18年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞(美術部門) 2014年〔個展〕遠藤彰子展 魂の深淵をひらく (上野の森美術館)/紫綬褒章受章 2021年「魂の旅」(鹿児島市立美術館) 2023年 毎日芸術賞受賞 2024年 遠藤彰子展(札幌芸術の森美術館) 長年の弛まぬ取り組みと、主催者の本展にかける意気込み 審査員 土方明司 今回初めて審査に参加させていただいた。第43回となるこの公募展は、全国数ある公募展のなかでも、息の長い取り組みとして注目されている。これも曽於市ならびに、関係者の方たちの努力の賜物であろう。実際審査を通じて感じたことは、協力していただいたスタッフの方々の細やかな気配りであった。絵画を通して曽於市の美術文化育成を目指す意気込みが伝わる。 周知のごとく吉井淳二は、戦前より二科会を中心に活躍し、日本の洋画界の発展に尽くした。戦後は日本芸術院会員、二科会理事長として後進の育成にも努力した画家である。一方、岡本太郎もまた同じ二科会で活躍し、数々の問題作、話題作を二科展で発表し注目を集めた。吉井淳二が穏健的確な写実と豊かな色彩で知られたのに対し、岡本太郎は前衛的な描写と原色に近い色彩で知られた。画風こそ違えど、ほぼ同世代の二人はお互いの芸術を認め、共に二科会、ひいては日本の美術界の発展のため切磋琢磨した仲である。そうした二人のことを思い、少しでも充実した内容になるよう審査にあたった。 以下、各受賞作品についての感想を記す。 一般部門、Troutman Christopherさんの「沖水歩道橋」は、何でもない町の情景が俯瞰で描かかれ、構図は湾曲している。これに、モノクロームの微妙なトーンが相乗し、見る者に心理的なインパクトを与える。新鮮な視点と表現力が感じられる。 高校生部門の小沢莉子さん「色のすみかで」は、自画像と思しき姿にカメレオンをダブル・イメージさせた作品。揺れ動く内面を暗示させ、イメージ、表現力共に新鮮。 小作品部門の靖涯さん「Sweet Heart」は、粗密なく丁寧に描き込んだ描写が効果的。構図の工夫により、装飾性と写実性の双方の魅力を感じさせる。 招待部門の吐師良子さんの「おもかげ」は、構図の工夫、描写の手法共に高い表現力を感じさせる。単なる再現描写ではない、絵画ならではの自立した作品。 土方明司賞の石黒和広さん、「あなたを見守ります」は、閉ざされた地下鉄ホームの空間をうまく構図に落とし込み、不思議な空間を生み出す。丁寧な描写と歪んだ空間、効果的な背景により、密度の高い作品となっている。 中学生の部の久保田夕陽さんの「自転車と影」は、不安定な構図とモノクロームの色遣いが印象的。影の描写も効果的である。 小学生の部の今堀稜己さんの「でっかいへびにたべられそうになった」は、思い切りの良い描写と色遣いが素晴らしい。とても印象的な作品。 幼児の部の隅元理仁さんの「せみの抜け殻」は、なんともユーモラスな描写に脱帽。思わず笑みがこぼれた。抜け殻の不思議なかたちの感じが良く出ている。 この他惜しくも選外となった作品にも多くの素敵な作品があった。是非、来年もチャレンジして欲しい。また審査を通じて、応募作品全体のレベルの高さ、層の厚さを実感した。 これは何よりも冒頭に書いたように、長年の弛まぬ取り組みと、主催者の本展にかける意気込みによるものであろう。 プロフィール 1960年東京都生まれ 1984年学習院大学文学部哲学科卒業。練馬区立美術館準備室に学芸員として配属 2004年平塚市美術館副館長に就任 2016年武蔵野美術大学客員教授就任 2021年川崎市岡本太郎美術館 第3代館長に就任 専門は日本近現代美術。東北芸術工科大学、 女子美術大学講師 文部省芸術選奨、またさまざまな公募展の審査に携わる 【著作】 2009年「画家たちの20歳の原点」 求龍堂 (企画・監修) 2014年「画家の詩 詩人の絵」 青幻舎 (企画・監修) 2017年「リアルのゆくえ」生活の友社 (企画・監修) 2023年「顕神の夢」 アルテヴァン出版 (企画・監修) 他 Examination outcome 審査結果 区 分 応募点数 応募人数 特別賞数 入選点数 特選点数 招 待 作 家 部 門 13点 13人 3点 10点 一般部門 177点 135人 37点 81点 小作品部門 127点 100人 19点 73点 高校生部門 167点 163人 26点 111点 ハートフル部門 24点 20人 11点 13点 小 計 508点 431人 96点 288点 0点 ジュニア部門 中学生の部 87点 87人 12点 26点 10点 小学生の部 1,353点 1,353人 39点 334点 145点 幼児の部 567点 567人 33点 122点 39点 小 計 2,007点 2,007人 84点 482点 194点 合 計 2,515点 2,438人 168点 770点 194点 Judging Staff審査スタッフ 審査員 遠藤 彰子 土方 明司 企画アドバイザー 米田 安希 審査補助員 肥後 盛秋 清祐 香織
General Comment
審査総評
世代を越えて作品が並ぶ光景は、曽於市の文化の豊かさそのもの
吉井淳二記念大賞展は、今年で43回目を迎えました。長きにわたり地域の文化として深く根付いてきた本展には、今回も0歳から96歳までという幅広い層から、意欲的な作品が数多く寄せられました。 一般部門大賞に輝いたトラウトマン・クリストファーさんの「沖水歩道橋」は、魚眼レンズを思わせる大胆な湾曲が見る者を惹きつけます。歩道橋からの俯瞰的な視点を生かし、足元から地平線の彼方まで広がる街並みをダイナミックに描写。人物をあえて描かず、建物の窓や影を丁寧に描写することで、そこに息づく人々の生活や物語を豊かに想起させる力作となっています。
招待作家部門大賞、吐師良子さんの「おもかげ」は、人物と犬の表情や手のしぐさが印象深く、画面全体から強い存在感が立ち上がってきます。ザラついた絵肌の質感が、日常の一幕に古い記憶のような深みと重みを与えており、静かな時の流れの中に、対象への温かいまなざしが感じられる一作です。
小作品部門大賞の靖涯さんの「Sweet Heart」は、毛並みの繊細な表現や布の質感が丁寧に描き込まれており、その柔らかな手触りまでもが伝わってくるかのようです。抑えた色調が静かな空気感を醸し出し、眠る猫を慈しむ作者の優しい視線が画面から溢れ出しています。穏やかな日常の一幕を鮮やかに切り取った一作といえるでしょう。
遠藤彰子賞の石山凌さんの「鶏」は、写実にとらわれない色と形の構成が、生命力あふれる魅力を放っています。鳥たちが重なり合う配置は画面に心地よいリズムを生み、生き物のエネルギーを鮮烈に提示。大胆な色彩と迷いのない筆使いが調和した、表現の力強さが際立つ作品です。
高校生部門大賞、小沢莉子さんの「色のすみかで」は、絵を描く少女の内面世界へと深く入り込んでいくような表現が印象的です。豊かな創造性があふれる一方で、現実から遊離していく危うさも感じさせ、幻想的な雰囲気と圧倒的な迫力が同時に立ち現れています。想像力の光と影を鮮やかに描き出した、見応えのある力作です。
ジュニア部門中学生の部、久保田夕陽さんの「自動車と影」は、自転車を斜めに切り取った大胆な構図が、画面に心地よい緊張感を生み出しました。地面に落ちる「影」を主役と捉え、その形を正確に追おうとする鋭い観察眼が光ります。モノトーンの中、反射板のわずかな色彩をアクセントにしたデザイン的センスが絶妙だと感じました。
小学生の部、今堀稜己さんの作品は、タイトル通り「でっかいへびにたべられそうになった」という衝撃がダイレクトに伝わります。赤と紺色の対比が大蛇の緊迫感を創出し、恐怖という感情を迷いのない色彩で可視化した表現力は見事です。また、幼児の部、隅元理仁さんの「せみの抜け殻」は、にじんだ色彩が地中の深みを感じさせ、並んだ虫たちがユーモラスに響き合う魅力的な一作。描く喜びが鮮烈に伝わる、生命力あふれる仕上がりとなりました。 惜しくも入選に至らなかった作品の中にも、個性が光る佳作は多数ありました。次回以降もぜひ挑戦を続けていただけたらと思います。
世代を越えて作品が並ぶ光景は、曽於市の文化の豊かさそのものであり、市民一人ひとりの表現が地域の魅力をつくり上げているのだと感じております。当コンクールの今後ますますのご発展をお祈り申し上げます。
プロフィール
特別派遣・渡印(~87年)
(西武アート・フォーラム)
(上野の森美術館)/紫綬褒章受章
長年の弛まぬ取り組みと、主催者の本展にかける意気込み
今回初めて審査に参加させていただいた。第43回となるこの公募展は、全国数ある公募展のなかでも、息の長い取り組みとして注目されている。これも曽於市ならびに、関係者の方たちの努力の賜物であろう。実際審査を通じて感じたことは、協力していただいたスタッフの方々の細やかな気配りであった。絵画を通して曽於市の美術文化育成を目指す意気込みが伝わる。
周知のごとく吉井淳二は、戦前より二科会を中心に活躍し、日本の洋画界の発展に尽くした。戦後は日本芸術院会員、二科会理事長として後進の育成にも努力した画家である。一方、岡本太郎もまた同じ二科会で活躍し、数々の問題作、話題作を二科展で発表し注目を集めた。吉井淳二が穏健的確な写実と豊かな色彩で知られたのに対し、岡本太郎は前衛的な描写と原色に近い色彩で知られた。画風こそ違えど、ほぼ同世代の二人はお互いの芸術を認め、共に二科会、ひいては日本の美術界の発展のため切磋琢磨した仲である。そうした二人のことを思い、少しでも充実した内容になるよう審査にあたった。
以下、各受賞作品についての感想を記す。
一般部門、Troutman Christopherさんの「沖水歩道橋」は、何でもない町の情景が俯瞰で描かかれ、構図は湾曲している。これに、モノクロームの微妙なトーンが相乗し、見る者に心理的なインパクトを与える。新鮮な視点と表現力が感じられる。
高校生部門の小沢莉子さん「色のすみかで」は、自画像と思しき姿にカメレオンをダブル・イメージさせた作品。揺れ動く内面を暗示させ、イメージ、表現力共に新鮮。
小作品部門の靖涯さん「Sweet Heart」は、粗密なく丁寧に描き込んだ描写が効果的。構図の工夫により、装飾性と写実性の双方の魅力を感じさせる。
招待部門の吐師良子さんの「おもかげ」は、構図の工夫、描写の手法共に高い表現力を感じさせる。単なる再現描写ではない、絵画ならではの自立した作品。
土方明司賞の石黒和広さん、「あなたを見守ります」は、閉ざされた地下鉄ホームの空間をうまく構図に落とし込み、不思議な空間を生み出す。丁寧な描写と歪んだ空間、効果的な背景により、密度の高い作品となっている。
中学生の部の久保田夕陽さんの「自転車と影」は、不安定な構図とモノクロームの色遣いが印象的。影の描写も効果的である。
小学生の部の今堀稜己さんの「でっかいへびにたべられそうになった」は、思い切りの良い描写と色遣いが素晴らしい。とても印象的な作品。
幼児の部の隅元理仁さんの「せみの抜け殻」は、なんともユーモラスな描写に脱帽。思わず笑みがこぼれた。抜け殻の不思議なかたちの感じが良く出ている。
この他惜しくも選外となった作品にも多くの素敵な作品があった。是非、来年もチャレンジして欲しい。また審査を通じて、応募作品全体のレベルの高さ、層の厚さを実感した。
これは何よりも冒頭に書いたように、長年の弛まぬ取り組みと、主催者の本展にかける意気込みによるものであろう。
プロフィール
専門は日本近現代美術。東北芸術工科大学、
女子美術大学講師
文部省芸術選奨、またさまざまな公募展の審査に携わる
Examination outcome
審査結果
Judging Staff審査スタッフ
審査補助員 肥後 盛秋
清祐 香織